薪窯とガス窯?
真のナポリピッツァ協会の認定を受けるには、窯の熱源は薪、または木屑でなければなりません。それには相応の理由があるのでしょう。特にナポリピッツァ協会の設立主旨である、伝統技術の再評価と、それをそのまま後世に伝えるという目的を考えれば、古典的な焼き方にこだわるのは当然と言えるでしょう。

ただし、薪窯で焼くから美味しいピッツァが焼けるのだ、という主張には賛同できません。薪窯でもガス窯でも美味しいピッツァは焼けますし、窯が何かという議論の前に、やることは山ほどあるのです。それが今まで述べてきた基本の生地作りであり、生地管理であり、焼きの技術であると思います。

その上で、さらに薪窯を使いこなすには高度な技術と経験があれば、勿論そのピッツァヨーロが焼くピッツァは旨いに決まってます。だからと言って、薪窯で焼くのが美味しいピッツァの第一条件であるかのように喧伝するのは、ちょっと違う気がします。

私は美味しいピッツァが焼ければ窯なんてどちらでもいいと思っています。美味しいピッツァを焼くための窯の条件、それは薪かガスかなんてことではないと思います。何故かと言えば、薪窯とガス窯の違いは、熱源の違いだけです。窯自体はいずれも耐熱レンガで作られていて、いわゆる石窯です。ナポリピッツァは、この耐熱レンガが蓄熱し、その輻射熱でピッツァを焼くのです。ですから、熱源が薪の火だろうがガスの火だろうが大差ありません。薪だと木の香りがつくと言う人がいますが、それこそ香りがつくぐらい煙が出たら、ピッツァが燻製になってしまいます。

では、どんな窯があれば美味しいナポリピッツァが焼けるのでしょう?その答えは温度差だと私は考えています。よくナポリピッツァ用のガス窯の宣伝文句に、「500度の高温でパリっと、もっちりと焼き上げる」なんてのがありますよね。あれもちょっと違う気がします。ガス窯の設定温度500度はあくまでも目安であって、何でもかんでも高温の窯であればナポリが焼けるわけではないのです。その中にしっかりしたポイントがないといけません。

ポイントとは何のことでしょう?それは、ピッツァの焼きたい部分を焼きたいように焼ける場所のことです。つまりこういうことです。ピッツァの底を焼くにはそのために適切な場所と温度帯、縁を焦がすにはそのために適切な場所と温度帯があるのです。ピッツァヨーロはそれらを把握し、ピッツァの状態を見ながら必要な部分を必要なだけ焼くのです。

具体的に言うと、まず初めに焼くピッツァの底の部分。ここを焼くには安定した炉床の温度が必要です。実際には300度程度ではないかと思います。この部分が熱すぎると、底に火が入る前に焦げてしまいます。それでは生焼けです。反対に縁に焦げを入れる時、窯内の上部の温度帯が500度程度では焦げは入りません。実際にはもっとずっと高温のポイント、火に近いような部分が必要なのです。

ガス窯で、窯内の広さが十分でないものがありますが、そのような窯でナポリピッツァを焼くのは困難です。何故なら窯内が小さすぎると、上下で必要な温度差ができないからです。その点、薪窯はナポリピッツァを焼くには最適です。それは薪という熱源が、ではなく、薪窯の形状が、であると私は思っています。

薪窯の内部は通常、ドーム型をしていて、なおかつ薪を燃やすスペースが窯内に必要なため、十分な広さがあります。これにより、炉床からドームの天辺まで、十分な温度差ができます。特にドームの天辺は丸くなっているため、そこに熱溜まりができやすく、かなりの高温になります。何度かまでははっきりとはわかりませんが、もしかしたら600〜700度以上かもしれません。さらに、薪は窯の右か左の片方でしか燃やしませんので、火に近いところ、遠いところでも温度差ができます。このため、薪窯の窯内には幅広い温度帯が自然に生まれ、経験を積んだピッツァヨーロなら、必要な場所を必要なだけ焼ける環境ができるのです。

ところが、ガス窯だとこうはいきません。ただ高温だけを売り物にしているようなガス窯が大半を占め、ドーム型のガス窯は私の知る限りたった二つしかありません。ましてや、「幅広い温度帯を誇るガス窯」なんて宣伝文句の窯は見たことも聞いたこともありません。

では、やはり薪窯でしか美味しいナポリピッツァは焼けないのでしょうか?
いえ、大丈夫です。ガス窯でも十分美味しいナポリピッツァは焼けます。要は窯の特性を掴むことなのです。

ガス窯の最大のメリットは、安定した炉床の温度を保てるということだと思います。通常のガス窯は、炉床の下にもバーナーが入っており、炉床の温度設定ができるようになっています。これにより、熱源が窯内にしかない薪窯と違い、常に下からダイレクトに炉床を熱することができます。これにより、安定した炉床の温度を保て、一番火の通りにくい部分を上手に焼くことができます。後は、縁を焦がすのに必要な高温部があればよいわけです。

高温部をどこに探すか、というのは窯の形状やバーナーの位置によって大きく異なります。ドーム型のガス窯であれば、ドームの天辺や火の近くなど、薪窯と似たイメージで焼くことが可能です。しかしながら、カマボコ型やボックス型の窯だとこれと言った熱溜まりがなく、バーナー周辺で熱くなっている部分を探さなければなりません。窯によって癖があると思いますので、それを上手く掴んで焦がします。

ガス窯によっては、設定温度に達すると燃焼が落ちてしまったりする窯があります。その場合は特別な焼き方が必要です。燃焼が落ちた窯の中にピッツァを置いておいても、水分が飛んでしまうだけで、決して焦げは入りません。そんな状態で焼いたピッツァはお客様には出せませんので、バーナー燃焼中に焼き切る必要があります。これにはちょっとした裏技があるのですが、まあ、それは一応企業秘密ということで。(笑)

要するに美味しいピッツァを焼くには、どの窯を使うかというよりも、どう焼いたら美味しくなるのか、という本質を理解し、それができるように窯を使いこなす、ということだと思います。それがないと、薪窯でもガス窯でも関係なく美味しいピッツァにはならないでしょう。

←BACK →NEXT